奥駆け日記(3) (H12年9月)

[大峰南奥駆]

9月14日(木)

 昨日は申請で許可を得ていた休暇を急な仕事の関係で取り消して今日から出発だ。しかし出掛ける時の天気予報が気掛かりだ。昨日までの予報では奈良南部で15、16、17日の降水確率は40、30、40%であり、解説でも所により雨または雷雨という程度だった。それが本日では降水確率は出なかったが大雨という表現に変わって来た。悪い予感がする。でも稜線伝いなら崖崩れで通行不能も無いだろうから慎重に行けばいいやという気持ちで出発する。

 今回は、五条から奈良交通で熊野本宮まで行って備崎橋から登山開始するコースである。勿論条件さえ良ければ2泊して吉野まで全大峰奥駆コースの完遂も視野に入れた計画である。家で出発時のザック重量は20kgでありまだ暑い時期用の水分5kgを含む重量である。

 五条から熊野本宮まで行くバスの始発は10:57しか無いので逆算すると自宅出発時間は計算上ではJR六甲道を7:23の快速で十分である。今回設定した五条迄のルートは大阪から御堂筋線で中百舌鳥まで出て南海に乗り換えて橋本まで行きここでJRに乗り換えて五条まで行くという料金面で最も安いルートである。JR六甲道から26分かかって大阪駅に着き地下鉄御堂筋線の梅田から10分後の7:59に乗り中百舌鳥に34分後の8:33に着く。

 地下鉄に乗っている間に本日方向磁石を持って来るのを忘れた事に気付く。時間があればどこかで捜すことにする。地下鉄の途中から腹の調子が悪くなり我慢していたので中百舌鳥で用を足した。橋本や五条ではコンビニも無いだろうから中百舌鳥で付近を捜すとセブンイレブンが駅裏に見付かった。今日の昼までの食糧を買い込む。磁石を売っていそうな店は見付からない。トイレやコンビニで30分程のロスをして9:09の各停に乗る。

 北野田か金剛あるいは河内長野のいずれかの急行停車駅で乗り換えようと思っていたが接続してそうな雰囲気が無かったので河内長野まで来てしまった。調べると急行は20分以上待たなくてはならないが特急がすぐ来るようだ。直感的に急行を待っていれば五条の10:57発のバスには間に合わないと思ったので510円の特急券を買って「こうや1号」に乗った。特急券を買うのなら特急料金は難波からでも同じなので難波回りの方がベターだったと反省する。

 ゼリーを凍らせた所にビールを入れて冷やしておいたのを飲み始める。橋本での乗り換えでは、南海とJRがまるで1つの駅のように一旦外に出ないと切符を買えない。こんな駅がまだあるのかと驚いた。外に出ずホームを移動して当初予定の10:05発に乗った。

 ウイスキーも飲み始める。やはり特急は正解だった。五条に10:22に着いた。35分時間も時間があるので期待薄だが磁石を捜す。殆ど何も無い町だと思っていたが古い町並みの商店街があった。ここで2軒の文具屋があるのを聞いたので、駅から5分くらいの所の文具屋で磁石を手に入れる事ができた。

 バスには10人程度乗っている。アルコールのお陰でバスではよく眠れた。途中の谷瀬の吊り橋のある上野地では雨が降っている。ここのバス休憩でみやげ屋のおじいさんと話しをして熊の油が虫刺されややけどに効くと聞く。1ビン2,000円でひっそり売っていた。本宮に近付くとやはり雨が本格的になってきた。本宮で付近を探索する。JRのバス停は標識だけの奈良交通の直ぐ近くにあり、待合室もある。雨がひどいので雨宿りしながらコンビニ弁当をたいらげる。

 今日はできるだけ先に行っておきたい。玉置神社まで行ければ理想だが、コースタイムで9時間程かかるので道を知らない間は夜間登山は困難だ。地図上で吹越宿跡に「行者堂」と書いてある寺院のマークが見られるので、雨避けできるお堂があるのを期待してここまでを目標に出発する。出発点は地図では備崎橋を渡って左とあるが道は見当たらない。雨の中を捜す気にならない。

 道なりに行くと案内図が現れ七越峰の公園を越えて奥駆道につながっているようだ。舗装道を暫く登ると七越峠の公園に着く。ここには東屋(雨は殆ど凌げないし円形で小さいので横になれない)と飲料水でない水の蛇口がある。ここで泊まるとすれば平坦地はたっぷりあるのでツェルトを張るしか無い。ここから山道になり暫く熊野川を左に見ながら平行して登る。途中の吹越峠で下向方面のなだらかな下りの分岐道が左手に現れる。

 暫く行くと下りになり舗装林道に降り着く。最後は林道工事で壊された階段の代わりに作られた手作りの木の階段の下りだ。ここに吹越宿跡があった。地図で「行者堂」と書いてある寺院のマークはとても雨避けできるものではなく街の道端で時々見掛けるお参りする祠と同じで高さ1m,幅70cm,奥行き50cm程度の小さなものでがっかりする。

 今日はどこで泊まろうかと迷う。この吹越宿跡の祠の前は草が生えてはいるが一応平らなのでツェルトを張る事は可能だがツェルトはあくまで非常用に持っているだけで使う気は無い。もう少し先に進む事にする。山在峠から林道は下り始める。このポイントガ次の山道に入るポイントである事に気付かず下り始める。

 下り始めて直ぐ崖が少し崩れている所があった。今は殆ど雨が止んでいるので良いが大雨になると怖いなと思いながら通過する。おかしいなと思いながらも辺りが暗くなり始めて来たので屋根を求めて構わず下る。下り切った所で現在ポイントが確認出来た。小井谷であった。丁度いい所に屋根のある作業小屋が見付かった。辺りはすっかり真っ暗である。時々雨がきつくなる。

 小屋に落ち着いてから、まず辺りの偵察に30分程出る。現在地点ははっきりした。給水点がなかなか見付からない。仕方なく雨で道に流れ込んでいる水でまだ汚れてい無さそうな所からたっぷり水を汲む。小屋の中は何とか寝るスペースが確保できるが余り余裕が無いが贅沢はいえない。ウィスキーを飲みながら味噌汁やスープを作って飲む。ラーメンも作って食べる。食事時も終わろうとした頃には大雨と雷がひどくなってきた。

 ラジオの天気予報を聞くと最悪である。大雨注意報が出ている。運を天に任せる気持と酔った勢いで寝ることにする。しかし、大雨と稲妻や雷鳴で時々目が覚める。床も傾斜していて右手方向にずり落ちそうになるのも一因だ。大雨と雷は夜明けまで続いた。

9月15日(金)

 大雨で暗い間の行動は危険なので、明るくなった6時前に起きて出発準備を始める。雨足はなかなか緩まないので仕方無く傘を差しながら山在峠に向かって出発する。もう少しで山在峠だという所で大規模な崖崩れに出会う。昨日崩れていた所が夜中の大雨の影響で大幅に広がっていたのだ。樹木や大石や土砂が20m程、大量に道を覆っており無理して越せない事はないが、上方から小石がパラパラ降ってくるし、雨も止んでいないので再度土砂崩壊の可能性もある。また越そうとしても柔らかい土砂に足がめり込み少なくとも膝下が泥で汚れるのを覚悟しなければならないと思われる。暫く様子を見ながら考えたが崩壊箇所を越すのは断念して引き返す。

 元の小井谷から進むと山手方面の分岐点付近に集会所があった。ここで泊まれたらもっと快適だったのになと思いながら通過する。西敷屋地区を過ぎてに内ノ井入ると村落になり、学校や一軒家の昔ながらの店も出てくる。今日はどうするか悩む。色々考えながら進む。再スタートして登り直そうかとも考えるが、スタート時間が5時間遅れなので頑張っても今日中に行仙宿山小屋に辿り着くのは難しい。

 その手前で泊まれそうなのは玉置神社位しかないので殆ど進めないし大雨も気になる。どうしようかと悩む。結局、残念だが、あがくのは止めて今回は無理せず断念する事にする。暫くして、左手を大回りして敷屋大橋方面から大きなバス道に出てバスを待つ方法も考えたが、トレーニングの続きとして右手で熊野川の左岸歩く事にする。上地地区や小津荷地区の村落を通過してから、高津橋を越えてバス道に出てバスを待つ事も考えたが、まだ本宮発五条行10:19発のバス出発時間に間に合いそうなので、歩き続けることにする。

 高山地区を過ぎて登り始めた元の出発点にようやく戻って来た。備崎橋から熊野本宮に余裕で着く。雨は降り続いている。バスに乗って最後部に座り着替えながらウィスキーをのむ。最初は私以外は1人しか乗っていなかったが、次第に乗客が増えていった。五条に近付くと雨が止んでいるではないか。一瞬しまったと思うが本宮方面では大雨には違いないだろうと自らに言い聞かす。帰りも来る時の逆コースで帰る。


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