奥駆け日記(10) (H16年2月)

2月23日(月)

 朝雨は止んでいたが「まるや」を8:48に出る頃また小雨が降り出す。今日は時間がたっぷりあるが足の回復に努めるためバスで川湯温泉の「木の国ホテル」に向かい9:30過ぎに着いてしまう。フロントに頼んで小さなロビーで待たせてもらう。時間がたっぷりあるのでチェックイン時間まで川湯温泉の名物の仙人露天風呂に入りたかったがずっと小雨が降っておりホテルを出られなかった。

 ようやく11時過ぎに一時的に雨が止んだので仙人露天風呂を見に行くと本日増水のため休止と表示されていた。宅急便で届けた荷物を詰め替え補給するとザック重量は28kg以上になった。これは厳しい。

2月24日(火)

 約束通り「木の国ホテル」に朝5:30に七越峰公園まで送ってもらう。大黒天神岳と五大尊岳は相変わらず尾根筋直登できつい。ザックが重いので何度も登りを止めて一息入れたりザックの荷重を減らせる木や岩が見付かる度にザックを担いだまま置く。またザックの荷重を減らせる木や岩が見付からなければストックを背中に立ててつっぱりにしてザックを置いたり腰を曲げてL字状になって一息入れるのでスピードが遅くなるし苦しい。

 残雪は大森山(1044.9m)から微かにチラホラ出始める。今日も暖かくて玉置辻で10゚Cもある。前回は旧笹尾辻で太平多山方向に行ってしまいロスしたが今回は意識して地図でチェックする。水呑金剛の所で直進して林道終点出た。今回は荷物が重いのを意識して早く出たのと七越峰公園まで送ってもらったので早くも玉置神社に14:26に着く。

 驚いたのは神社本殿下の手水に水が無く流れてもいなかった。社務所の所で水が1カ所だけ出ていてホッとする。お手伝いさんらしき中年女性に聞けば昨日初めて水が出たそうで洗濯もできなかったと言っていた。一昨日の雨で出るようになったそうだ。少し時期を誤れば水は無く雪も無く大変な所だった。これから先水場が凍って水が汲めず雪も無かったらどうしようと心配になる。この女性に奥駆の事を聞かれたり信者の事を話された。水を補給していたらこの女性が&茜丸のドラヤキ」を1つ荷物なるけどと言ってくれた。行動食として直ぐ食べる。

 水を補給してから14:56に今晩の宿泊場所にするカツエ坂先の展望台に向かう。展望台の東屋に15:34に着く。風が少しあったので展望台の方は止めて東屋に陣取る。天気予報は今夜から少し悪くなるようだ。最初、東屋の下でシュラフにシュラフカバーだけで寝ようと思っていて準備していたら次第に風が強くなってきて気温も下がってきたので寒くなってテントを張る。さすがテントの中は暖かい。このテントは正解だった。夜中に何度も雨がテントをたたく音が聞こえたのだ。

2月25日(水)

 本来ならせめて平治の宿まで行きたい所だが今日は行仙宿山小屋が目標になる。しかし昨日早く到着できた油断で起きるがやや遅れ、テント撤収に時間がかかり朝出発が7:31になってしまう。昨日のペースでは明るい間に着けるだろうか。岩の口で上葛川ルートは未だ倒木は整備されていない可能性があるだろうから本ルートを選ぶ。前回通った時は7:27だったが今日はもう8:51だから平治の宿は無理だ。

 この奥駆道も年々標識整備が進んでいる。特に今年世界遺産登録するそうで余計に進んでいるようだ。地蔵岳への登りは鎖が付いているが直登でホールドが多く普通なら問題無く登れる所がザックが大きく重いので体が振られて最初の第一登を一度失敗する。ザックが重いのは厳しいが気を取り直して再チャレンジで登れた。次の槍ケ岳は地蔵岳より少し楽だった。葛川辻に15:25に着き岩の口から6時間34分かかっている。

 前回の上葛川口ルートで4時間58分もかかったが今回更に1時間半も余分にかかっている。笠捨山に16:18に着く。ここから2時間近くもかかって暗くなった18:13にようやく行仙宿山小屋に着く。心配していた水は昨年12月に新しく汲んだ水は空で汲んだ時期不明の古い水がタンク1つ残っており量的にはたっぷりでホッとする。水が流れていない可能性のある水場まで暗い中下って行って汲み上げるより沸かせば問題ないと割り切る。小屋内は6゚Cと暖かい。

2月26日(木)

 朝遅目の6:41に行仙宿山小屋を出発する。今日は深山ノ宿までが目標だが昨日のペースではまた到着は暗くなる覚悟が必要そうだ。平治の宿・持経の宿の両方とも汲み水は無かった。持経の宿までは結構ザック荷重を減らす停止をちょくちょくとっていたが持経の宿でご飯の行動食を取ってから少しは荷物が軽くなったのとこのペースでは遅くなるので休止ペースを減らす。せめて奥守岳には明るい間に着こうと頑張る。

 今日は暖かいが風があり稜線ではいい風がある。ところが奥守岳に近付く頃から風が強く気温が下がってくる。油断すると風で体が振られる。時には耐風姿勢をとって風が弱まるまで進めない時もある。天気予報による日本海に寒冷前線通過の影響だろう。次第に耳が痛くなってきたので薄手の目出帽を出して耳を被う。奥守岳を越えると益々風が強く気温が下がってきたので厚手の手袋をつけゴアレインウェア上着を着る。夜の準備に発行ダイオード5灯のライトを出して頭に付ける。

 天狗山を越えるとかなり暗くなって来る。石南花岳に着く前に完全に日が暮れる。空には三日月が出ており雪があるのでライト無しでも辺りの様子は判るが道跡や案内印は見えず発行ダイオード5灯のライトを灯けても光が弱く見えない。やはり発行ダイオード5灯でも夜の行動には不適だという事を認識する。この道は何度か通っているのと尾根通しで進めば間違いないので不安は無い。しかし道は雪で被われて判明し難くい。何度もズボッと雪にはまり夏の夜のようには行かない。

 尾根通しを基本に記憶と感で進んでようやく古代の辻に19:33に着く。古代の辻からも手探り状態を繰り返しながら最後のトラバース地点に着くと雪面の傾斜が急でキックステップではなかなか食い込まない固い雪だったがストックたよりに何度も足でステップを切って進む。敢えてアイゼンを出す気にならない。しかし滑落すれば500mは滑り落ちて大怪我をするだろう。暗いので逆に恐怖心は涌かない。慎重に通過すれば直ぐ深山ノ宿だ。

 20:17に深山ノ宿に着く。避難小屋は相変わらず入口扉が壊れたままだ。今回は勧頂堂に入る。直ぐ精香水を汲みに行かなければならない所だがポリタンクに水が残っていたのでこれを使う事にする。気温はぐっと低くなり堂内で-2゚Cだ昼間は暖かかったので未だ液体を保っているが直ぐ凍ってくるだろう。遅いので精香水を汲みに行く気にならない。天気予報は明日崩れるそうだ。どうしようかと思う。朝の情況で判断しようと決める。

2月27日(金)

 一晩中強風だった。昨夜到着が遅くなったので目が覚めるのも遅くなる。朝の堂内気温は-5゚Cで外はガスっており風も強い。様子を見ながら徐々に出発準備にかかる。よく見るとポリタンクの水は汚いようだ。トイレのついでに精香水の様子を見に行くと何と水が流れ出しているではないか。ひしゃくの周辺や溜桶周辺は凍っているが流れている所は凍っていないし溜まった水もまだ凍っていないのだ。雪で水を作るよりはるかに楽だし早いしきれいなので再度水を汲みに行く。

 外の気温は-8゚Cで風が強くガスっている。起きるのが遅かったのと水をこぼして後始末をしていたりすると9時を過ぎてしまう。天気予報でも今日は良くないようだ。1200m以上の標高では雪の付き方は多く、特に北面は下りに当たり傾斜がきつくてガスっていて風が強ければ危険かも知れない。9時頃一瞬晴れるが直ぐにガスる。今日の行動を断念する。1日遅れると後2日で吉野に辿り着くのは厳しい。午後になると天気が回復する。前鬼から下ってバス・電車で予約してある旅館「さこや」に向かおうかと考える。そうすると時間が余り過ぎる。

 今日はここに泊まって明日はお仲坊に泊まって朝4時に起きて5:00出発で2時間15分かかって7:41発のバスに乗ろうと決める。(9:02発バスでも良いのだが)となれば逆にのんびりしたものだ。暇なので付近を散策する。昨夜通ったトラバース地点まで登るとトラバースした斜面の傾斜はきつく改めて緊張する。

 一方西側にトレースを発見したのでどこに続いているのか見に行く。どんどん尾根を下っており案内印もあちこちに付いている。後で地図を見るとルート表示は無く赤井谷遡行ルートから旧花瀬道か滝川沿いの林道内原線からR168の滝川口に降りているようだ。今日は金曜日なので当然1日中誰も現れない。昼間の外気温は-3.5゚Cで堂内気温は-1.5゚Cだった。のんびりする。

2月28日(土)

 今日はお仲坊までなので急ぐ必要はないのでのんびり準備する。朝から天気は良い。9時頃ほぼ準備できてお堂の扉を開いて外に出た時60歳位の男性1人がお仲坊駐車場からやって来た。色々聞かれる。一応真面目に答える。この男性はここに小さなザックをデポして釈迦ケ岳に登って行く。夕べから今日以降の予定を色々考えていたが今夜から再び天気が崩れるそうで、できれば今日中に前鬼口から大滝までバスに乗ってここから金峰神社に向かい神社の休憩所に泊まるのが最適だと考え始める。

 しかし出発が遅れているので14:47発の学校休日日運転バスに間に合うかどうかにかかっており、お仲坊で判断しようと考える。お堂を出発する頃先程の男性の姿は見えない。今回は柔らかい雪道が多いので持って来たアイゼンを全く使わなかったがつけてみる事にする。一昨日は夜でも道を外さなかった古代の辻までの道を明るいのにも拘わらず一度外してしまう。

 途中更に1人の中年男性にも会う。10:32に古代の辻に到着。ここからは本格的に雪がついていて最初の下りが目印より先からトレースがついている。昨日単独で下っていれば道を探すのに苦労しただろう。特に沢筋を越えるポイントを間違えると致命的だ。結果的にトレースのお陰で気楽に下れた。

 途中、女性を含む重装備の6〜7人のパーティに出会う。次に両童子岩手前で最初の60歳位の男性に追い付かれる。釈迦をピストンしてから追い付いいたのだから早い。でもナップサック程度の荷物ならこの程度が当たり前だろうとも思う。先に行ってもらう。両童子岩まで雪が多かったがここから先はアイゼンを脱ぐ。

 お仲坊に近付くと道が良くなるので早く下れるようになる。お仲坊に12:35に着く。バス発車の14:47まで2時間12分しかないがコースタイムは2:15でぎりぎりだ。思い切ってバス停まで頑張る事にする。下りで良い道なのでスピードは遅くはならない。それともう一つ一縷の望みを持つ。先程追い越された男性が着替えなどでまだ車を出発してない間にお仲坊の駐車場に辿り着けば乗せてもらえるかも知れないという望みだ。結果ドンピシャでお仲坊の駐車場に着いた時彼は未だ着替えていた。

 彼を見ると向こうから乗りませんかと言ってくれた。バス停まで乗せてもらえないかと言うとどちら方面に帰るのかと聞かれて神戸と答えると私は橿原から来たのでその辺まで送ってあげると言われる。予定があって大滝で降ろして欲しいと言うと蜻蛉の滝から登るのだろうと言われそうだと言うとその麓の「あかつきの小野スポーツ公園」まで送ってくれた。

 奈良県の山を中心に登っている人でこの辺には詳しかった。非常に運が良かった。この公園には2つの東屋がありここで泊まろうかという誘惑に刈られるが天気予報では今夜から雨で明日初めての道を雨の中を登るより今日中に何としても金峰神社に辿り着こうと気持ちを奮い立たせる。金峰神社に水は無いのでここのトイレで滅菌消毒は出来ていないという水を3リットル汲む。蜻蛉の滝は優雅な滝で途中東屋もあった。

 これを越えて聖天岩屋越えてT字の山道に出会う。これが旧吉野街道かと思う。標識があり右は吉野山・五社峠とある。地図から方向は左手である。吉野山というのがよく判らず青ケ根峰の事かなと思って地図を見ても山頂としての吉野山というのは出ていない。峠は逆方向なので左手を取る。結果的にこれは失敗だった。旧吉野街道に出ていなかったのだ。

 元に戻らず、失敗の修正に多くの余分の努力を要してようやく本来の道(旧吉野街道)に戻れた。それから暫して吉野山と五社峠への分岐が現れる。やはり最初のT字分岐を右に行くべきだったのが判明する。それからも青ケ根峰へのアスファルト道路に辿り着くのに時間を要し18:05の暗くなり始めた頃ようやく辿り着けた。このアスファルト道路を少し登り返して金峰神社への道に入れた。この道も拡幅整備中で工事中だった。金峰神社に18:50に到着出来た。天気予報より遅く夜中に雨がしっかり降り始める。

2月29日(日)

 朝10:15過ぎに一時雨が上がるが直ぐ降り出す。こんな天気なのに金峰神社まで(車で)参拝に来る人が2組もあった。宿泊予定の旅館「さこや」まで2時間程度かかるので、天気はまだぐずついているがゴアレインコートを着て傘をさして、チェックインの15時前に入れるよう13時前に金峰神社を出発する。この旅館は近鉄吉野駅までは迎えに来てくれるそうだが出発前に金峰神社まで迎えを電話で頼むと断られた。雪で行けないという理由だがこの付近に雪など全く見られなかった。鼻だけ高く全くサービスの悪い民宿以下の旅館だった。


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